大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和57年(わ)6555号 判決

被告人 永田正一

昭七・三・八生 会社役員

主文

被告人を免訴する。

理由

本件起訴は、確定判決と同一の効力を有する略式命令を経た事実と同一の事実について更に審判を求めるものと認められるから、被告人に対し免訴の言渡をする。以下その理由を説示する。

本件公訴事実は、

「被告人は、大阪府池田市住吉一丁目一九番一七号においてゲームセンタープレイボーイを経営するものであるが、井上勝彦と共謀の上、同ゲームセンターにセブンポーカー三台、フアイブポーカー五台、ロイヤルマージヤン一台の各賭博遊技機を設置し、被告人らが胴となり、張り手となる客において、一回につき、セブンポーカーにあつては、一〇〇円を一点として一点ないし四〇点の現金を賭けて始動ボタンを操作して同機を作動させ、いわゆるポーカーゲームの方法により勝敗を決し、客が勝てば最高二〇〇万円までの現金を取得し、フアイブポーカーにあつては、一〇〇円を一点として一点ないし一〇点の現金を賭けて前同様に機械を操作して勝敗を決し、客が勝てば最高五〇万円までの現金を取得し、ロイヤルマージヤンにあつては、一〇〇円を一点として一点ないし一〇点の現金を賭けて始動ボタンを操作して同機を作動させ、いわゆる麻雀の方法により勝敗を決し、客が勝てば最高五〇万円までの現金を取得し、いずれの場合においても客が勝てない場合は、被告人らにおいて右賭金を取得する条件の下に、常習として、昭和五七年一一月二九日午後七時三五分ころから同日午後七時四〇分ころまでの間、同店において、客である村田博ほか二名を張り手としてセブンポーカー一台、フアイブポーカー一台及びロイヤルマージヤン一台を使用して現金合計九、〇〇〇円を賭けさせて金銭の得喪を争い、もつて、賭博をしたものである。」

というのである。

ところで、弁護人が提出した略式命令謄本の写によれば、昭和五七年一二月二五日大阪簡易裁判所は、被告人に対し、

「被告人は、大阪府池田市住吉一丁目一九番一七号でゲームセンタープレイボーイを経営するものであるが、枝松士郎が同店の一部を自己より賃借し、賭博遊技機スロツトマシン一〇台を設置して胴となり、張り手となる同店の客において現金と交換したコインを投入口から投入させてレバーを引いて作動させ、いわゆる絵合わせの方法により勝敗を決し、客が勝てば最高三万円までの現金を取得し、そうでない場合は右枝松において右コインを取得する条件の下に、同人が昭和五七年一一月二九日午後七時三五分ころから同日午後七時四〇分ころまでの間、同店において客である小出義秋ほか二名を張り手として右スロツトマシン三台を使用して現金合計六、〇〇〇円を賭けさせて金銭の得喪を争い賭博をするに際し、その情を知りながら、昭和五六年四月初旬ころ、右同店において、右枝松に右スロツトマシン一〇台を一台につき五万円の使用料を徴する約束で賃貸し、もつて右枝松の犯行を容易ならしめて、これを幇助したものである。」

との事実について、被告人を罰金一〇万円に処する旨の略式命令を発していることが認められ、右略式命令が昭和五八年一月九日確定したことは検察官の釈明により明らかである。

そこで本件公訴事実と右略式命令のあつた事実との同一性について検討するに、(証拠略)によれば、被告人は遊技機の賃貸等を業とする清永物産株式会社の代表取締役であるが同会社はいわゆる被告人の個人会社で、実態は被告人が個人でこれを経営していたものであるところ、昭和五六年二月ごろ、公訴事実及び略式命令事実掲記のプレイボーイの東半分部分を被告人個人名で枝松士郎に賃貸するとともに同時に右清永物産の名において遊技機スロツトマシン一五台を同人に賃貸(内五台は同年三月ごろ解約)して同人に同所で遊技場を経営させていたが、同年四月初旬ごろ、右枝松から、賞品を出す程度の遊技だけでは客が集まらず賃料も満足に払えないから、客が勝てば勝数に応じて現金を支払いゲームに賭博性をもたせる旨きかされ、以後同人が右場所、遊技機を用いていわゆる遊技機賭博を行なつていることを知りながら、引き続いて右遊技機等を賃貸する一方昭和五七年七月ごろから、遊技機の賃貸だけでは儲も少ないので、前記プレイボーイの西半分部分で個人で被告人自ら遊技機賭博場を経営する計画をたて、店の責任者として井上勝彦を雇い入れ、同年九月二〇日から公訴事実掲記の形態の遊技機賭博場を開店し、以後右井上と共謀して常習として賭博を行なつていたことが認められる。

検察官は、被告人の枝松に対する遊技機賃貸による賭博幇助の行為は賃貸した遊技機が賭博に供されることを被告人が知つた昭和五六年四月初旬の時点で事実上終了しており、その時点では被告人に賭博の常習性が認められないから、その後に獲得した賭博常習性の発現としての本件公訴事実と略式命令の賭博幇助の事実とは別罪であるというが、賭博の用に供されることを知りながら遊技機を賃貸して賭博を幇助したという場合、訴因記載の文言如何にかかわらず、幇助行為として構成要件的に意味あるのは、過去に賃貸を開始したということではなく、本犯の成立時において引き続き賃貸していたという点にあり、通常訴因に賃貸開始の時期、知情の時期が明らかにされるのは、幇助行為の開始時期、態様を明らかにして訴因を具体化するためのものにほかならないものと考えられる。ちなみに本件で被告人が枝松に遊技機の賃貸を始めた時点では、それが賭博の用に供されることの認識が被告人に欠けており、客観的にもそれが賭博の用に供されたわけではないからこの時点で賭博幇助行為はなく、その後賃貸契約自体に変更はなかつたが、被告人において賃貸中の遊技機が賭博の用に供されることの情を知り、客観的にもそれが賭博の用に供されるに至つた昭和五六年四月初旬の時点をとらえて幇助行為(の開始)があつたとする検察官の本件略式命令請求自体、幇助行為として構成要件的に意味あるのは、情を知りながら引き続いて賃貸していたという点にあることを暗に是認しているものと考えられる。そうだとすれば、本件略式命令事実の幇助行為は、同掲記の昭和五六年四月初旬に終了したものではなく、本件公訴事実の犯行時と一致する本犯成立時まで引き続いて存続していたものと見るべきであり、当時被告人には賭博常習性があつたとするのが本件公訴事実であるから、若し当時被告人が枝松に引き続いて遊技機を賃貸していたことが、被告人の右と同じ賭博常習性の発現とみられるならば、本件公訴事実は、すでに確定裁判を経たのと同じ日時における常習一罪の一部について更に審判を求めていることになり、免訴を免れないものと考えられる。けだし賭博を幇助する行為は賭博行為ではないから、たとえ幇助行為をいかに反覆累行してもそれだけでは常習賭博罪を構成するものでないことはいうまでもないが、幇助といえども、自ら習癖として行なう賭博行為の態様、幇助行為の動機、態様等に徴し、それがその者の有する賭博常習性の発現とみられる場合には、常習賭博幇助罪が成立し、同時に同じ常習性の発現としての賭博罪を犯した場合にはこれと常習一罪の関係に立つものと解され、また賭博を幇助する意思で賭博用具を売買等によつて譲渡した場合のように、本犯の成立をまたずに幇助行為が完了している場合は、その時点すなわち幇助行為の時点における常習性のみが問われ、本犯成立時までに新に常習性を獲得しても、先の幇助行為が後の常習性の発現ということは有り得ないから常習賭博幇助罪が成立する余地はなく、後に行なわれた常習賭博罪と一罪の関係に立つこともないが、賭博用具を賃貸して賭博を幇助する場合のように幇助行為が継続している場合は、幇助行為の開始時点では常習性が認められない場合であつても、その後犯人が賭博の常習性を持つに至り、本犯成立時に引き続いて賃貸しているという幇助行為が、右常習性の発現と認められる限り常習賭博幇助罪が成立し、同じ常習性の発現として行なわれた常習賭博罪とは常習一罪の関係に立つものと解すべきであるからである。

そこで被告人の本件略式命令事実における幇助行為が本件公訴にかかる被告人の賭博常習性と同じ常習性の発現と見ることができるか否かについて検討するに、前記本件各犯行に至る経緯の認定に供した前掲各証拠によれば、前記公訴事実並びに略式命令事実を全て肯認するに足り、かつ被告人が枝松士郎から徴していた賃料は家賃、営業権料等を含めれば相当高額で、それは枝松において、被告人から賃借した遊技機を用いて賭博を行ない多額の利益をあげるのでなければ営業が成り立たず、被告人に対する賃料の支払も困難と考えられるほどの額であり、被告人が枝松から賃料を滞りなく徴収して現実に利益をあげうるか否かは、被告人が賃貸している遊技機等による枝松の賭博営業の成績如何にかかわつていたこと、つまり枝松の行なう賭博の勝敗が直接被告人の利益にもつながつていたものと認められ、これに前示認定の本件各犯行に至る経緯、被告人及び枝松の行なつていた賭博の手段、方法の同質性等を併わせ考えれば、昭和五七年一一月二九日枝松が小出義秋ほか二名と遊技機スロツトマシンを用いて金銭の得喪を争つて賭博をするについて、枝松が賭博の用に供することを知りながら、これを幇助する意思で引き続き右遊技機を同人に賃貸していた被告人の賭博幇助行為は、本件公訴にかかる常習賭博罪と同じ、被告人の賭博常習性の発現と見るべきものと考えられる。

以上見てきたところから、被告人の枝松に対する賭博幇助行為は、賭博常習者の行為として常習賭博幇助罪が成立し、本件公訴にかかる常習賭博罪とは常習一罪の関係にあることになり、その一罪の一部である常習賭博幇助の部分についてすでに確定判決と同一の効力を有する略式命令があつた以上、残りの一部である本件公訴にかかる常習賭博罪は、確定裁判を経たものとして刑事訴訟法三三七条一号により免訴の言渡をすべきものと考える。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 西田元彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例